マブラヴオルタネイティヴを褒める(その2)

 オルタ感想第2回。今回は主にシナリオの感想です。

 ちなみに前回はこちら。冒頭に「批判的な見方も多い(らしい)世間の評価」と書いてますが、その後いくつか感想を拾ってみたところ、評価している向きもそれなりにあるようですね。自分の感想がぶれそうなんで他人の感想は見ないようにしてたのと、発売直後の荒れ模様だけちらりと目にしていたので前述のように感じてたんですが、実際には賛否半々くらいなのかも。

 そんなわけで以下感想本編。




 オルタのシナリオのテーマは、ずばり「戦争」です。

 戦争といっても作品によって描き方は色々ですが、オルタの場合は、実際に前線へ赴く兵士の目を通して、戦争というものが描かれています。要するに描かれるのは、戦争の「現場」であり、生と死の境界線での物語なのです。そして、そういった物語を、ここまで深く、丁寧に描いた作品を、(少なくともオタク向けサブカルチャーの中では)私は見たことがありません。

 生きるか死ぬかの戦いを描いた作品は多い*1ですが、本当にそれを生きるか死ぬかの戦いとして描けているかと改めて考えてみると、そうでないもののほうが多いような気がします。実際、「マブラヴ」アンリミテッド編の展開はそんな感じでした。しかし、オルタではBETAの脅威と、常に死の危険に晒されている人々、そして実際に命を失っていく人々の姿が容赦なく、生々しく描かれます。勝利をもたらすのは奇蹟ではなく、優秀な戦略と戦術。だがそれでも予想外に危機は訪れ、突然に命を落とすことがある。そんな、戦争の冷徹な側面を逃げずに正面から描いたことは評価に値します。

 同時に、そうした状況に置かれた人々の心理も、非常に良く描けていると思います。これについては、最終的に「生き延びること」より「いかにして死ぬか」を考えて戦うという、登場人物たちの思考がすべてを物語っています。平和な世界に生きる我々プレイヤーにしてみれば、一種異常な考え方が必要とされる世界での出来事。それが、オルタの物語なのです。


 一方で、オルタのストーリーは武の成長物語として見ることもできます。

 ゲームスタート時、未来を知っており、また兵士として3年のアドバンテージがある武が、未来を変えるために奮闘するものの、次第に現実に打ちのめされ、一度はそれ以下はないというところまで叩き落とされる。これは、最初は兵士として役立たずだった武が、ビデオゲームが得意だったために一躍エースパイロットになった、「マブラヴ」アンリミテッド編とは正逆の構造です。そんなどん底の状態から這い上がるオルタの物語は、普通の学生から衛士になった武が、真の意味での衛士になるまでの物語であると言えます。言い換えれば、「エクストラ編=元の世界」の武とも、「アンリミテッド編=前のこの世界」の武とも違う、「この世界=オルタネイティヴ」の武になるまでの物語です。その過程もまた、戦争描写同様非常に納得のいくものとして書かれていると感じました。

 また、元は平和な世界の人間だった武は、オルタの物語の中で文字通りプレイヤーの身代わりになります。最初はその意味もわからず、ただ「世界を救おう」とだけ思っていた武が、現実の重さに愕然とする様は、ありがちな「異世界英雄譚」*2を期待していたプレイヤーに対する、一種の皮肉として機能しているようにも思えました。

 実際のところ、あれこれ悩ませたりせず、単純な異世界英雄譚として書くことも可能だったはずです。しかし今回、アージュはあえてそうせずに、主人公(ひいてはプレイヤー)に容赦なく現実を突きつけることを選びました。どちらが正しいというわけではありません。ヒーロー活劇ものにも、エンターテイメントとして価値はあります。その一方で(「君が望む永遠」がそうだったように)とことんまで現実の重みを突きつけていく物語にも、同じくらい大きな意味があると思います。


 先にも書いたように、「マブラヴ」アンリミテッド編からオルタ前3分の1くらいまでは、典型的な異世界英雄譚の流れになっています。それが一気に現実路線に方向転換したのは、もちろんまりものあのシーンからです。あのシーンの描写について、感覚レベルでは私も擁護するつもりはありません。あれを不快に思う人がいるのは当然だと思うからです。

 しかし、ふと冷静になってその意味について考えてみたとき、私にはあのシーンこそが、このゲームのすべてを象徴しているように思えます。なぜなら、さっきまで隣にいた親しい人が、何の前触れもなく、無惨に死んでいくということ、そして物語の最後に救いがあるとして、それは様々なものの犠牲なしに成り立たないということ、物語の重要なテーマであるこの2点が、あのシーンには集約されているからです。プレイヤーの目を覚まさせ、そのことを強く意識させるためには、あのくらい強烈な描写は必要だったと私は思います。逆に、そこで見た目の描写だけに固執し、批判一辺倒になるようなプレイヤーには、この物語を真に楽しむことはできない――あの描写はそんな「踏み絵」的な役割を果たしているのではないでしょうか。


 オルタのテーマ的な側面に目を向けたとき、もうひとつ忘れてはならないのが帝国軍反乱事件の一件です。唯一人間同士の戦いを描いたあのエピソードは、その分現実に対してより大きな意味合いを持ってくるわけですが、ここで語られるのが、戦争の政治的な側面と、「国を守る」ということの意味についてです。

 前者については、この事件の裏で起こっていた出来事がすべてを物語っています。アメリカの扱いなどは、現実を顧みたとき、思わず首を縦に振ってしまうような説得力があります。後者は、我々が普段目をそらしがちな問題として、一度考えてみる良い機会を作ったと思います。最近では同様のテーマを掲げた作家として福井晴敏が著名ですが、彼が最後は中途半端な理想論を掲げてなあなあ的に終わらせてしまう分、むしろ意識レベルはこちらのほうが上だと感じました。


 ここまでべた褒めに近い感じであれこれ書いてきましたが、不満がないではないです。むやみに思考を論理的に言語化しようとする武の性格にはしばしば苛々させられましたし、兵器やBETAの説明も冗長すぎると感じたことが何度かありました。また、甲21号作戦や横浜基地襲撃事件のエピソードのほうが、最終決戦より明らかに質が高かったというのも気になるところ*3です。

 とはいえ(ここまで書いてきたことからわかるかと思いますが)、私はオルタに関してはエンターテイメント性よりも、物語の抱える大きなテーマ的なものに強く感銘を受けたので、全体としてみたときには全くの許容範囲です。そもそも「プレイを通して、プレイヤーを心地よくさせること」がエンターテイメントの定義だとするなら、オルタはその範疇をしばしば逸脱しています。ただ漫然とプレイするのではなく、プレイヤーもまた、考えながらプレイすることを要求される――オルタのシナリオは、そういったものだったのではないか*4と私は考えています。


 感想は多分次回で最後になるかと。



 あ、ちなみに私はエンディング全肯定派です。ああいう終わり方は大好きだ。

*1:エロゲーではそんなにありませんが。漫画とかライトノベルとかも含めて。

*2:いま思いついた造語。突然異世界にとばされた主人公(たち)が、その世界の問題を解決していく物語全般を指す。

*3:もっともこれについては、それまで個々人が悩みながら最後に出した答えを、戦いの中で実行する、いわば答え合わせ的なシーンであり、物語上の意味はその直前まででほとんど果たしている、ということで自己完結してはいます。

*4:とはいえ、甲21号作戦直前のあからさまな死亡フラグ立てや、みちるや水月の最期のシーンなど、(その是非はともかくとして)テーマ的なものを前面に押し出していると評するにはまだまだ甘いと感じました。