今更ながら『ゼロの使い魔』はめちゃくちゃ面白い

※今回のエントリは無駄に気合いが入っているので、全編常体で書くことをお許しいただきたい。


 少々思うところあって、『ゼロの使い魔』を読んでいる。

 実はしばらく前に1巻だけは読んでいた。その時の感想は、ぶっちゃけ「くそつまんねえ」であった。ありがちな導入、狙ったようなキャラクター&ストーリー。ありがちな非難の文句を用いるなら、「なんでこんなのが売れんの」という感じであった。本を壁に投げつけたいとさえ思った。

 しかし今回、ちょっとしたきっかけがあって2巻以降を読んだとき、評価が一変した。こんなに面白い本だったとは!と衝撃を受けた。今まで読まなかったことを後悔した。1巻だけを読んでつまらないと決めつけたことに対して土下座したくなった。今ちょっとしてみた。

 今はただ、早く次の巻が読みたくて仕方ない。



 とまあここで話を終わらせてもいいのだが、それだけならわざわざここに書く意味もないので、もう少し具体的に、どこからその面白さが生まれているのか、それを文章にしてみたいと思う。


 まず、なんといっても文章が読みやすい。テンポが良いために、すらすらと読み進めることができる。さらに文章に無駄がない。余計な描写がないので、ストーリーの展開が早い。そのため1巻1巻が非常に面白い。これだけ巻を重ねた話だと、巻ごとに面白さにむらがあったりもするだろうが、それがない。巻が進むごとにキャラクターが増え、話も複雑になっているが、それで話の流れを追えなくなるようなことも(ほとんど)ない。


 次に言うまでもないことかもしれないが、キャラクターが魅力的である。

 ツンデレばかりがクローズアップされるルイズだが、貴族としての誇りを重んじたり、失敗ばかりなことにコンプレックスを抱いていたりと、非常に深みのあるキャラクターとして描かれている。才人は才人で、肝心なときには男らしくびしっと決める、ヒーローの名に相応しいキャラクターだ。ただ個性的なだけではない。シエスタやタバサ、キュルケやアンリエッタなどのメインキャラクターはもちろん、ギーシュやアニエスといった脇役に至るまで、しっかりと一人ひとりのストーリーが描かれている。シリーズ10巻を数え、登場したキャラクターも非常に多くなっているが、それでも展開上無駄な登場人物がまったくといっていいほどいないのは、先に書いた、文章の上手さ・無駄のなさ、展開の早さがあってこそのものだろう。*1


 そしてみっつめに、世界設定がしっかりしている。

 実際に読んだ人はわかると思うが、『ゼロ』の物語は見た目に反して(?)結構ハードである。背景の設定がしっかりしていないと描けないストーリー展開だが、『ゼロ』はその点もしっかり押さえられている。そして、そんなストーリーの流れの中で、ルイズと才人の関係の変化を中心に、それぞれのキャラクターの物語が描かれるのである。「世界」や「伝説」に絡む大きな物語と、キャラクター一人ひとりの小さな物語が、しっかりと両立している物語。それが『ゼロの使い魔』の物語なのである。


 当たり前と思えることかもしれないが、これらの要件がいずれも高い水準で満たされている作品はそうそうない。売れるだけのことはある、というと嫌な言い方になるが、娯楽作品として非常によくできているのは間違いない。


 ただそれでも、1巻がつまらなかったという記憶が私の中から消えたわけではない。時間がたって私もいろいろと見方が変わったので、もう一度読み返してみないと何とも言えないところではあるが、おそらく『ゼロ』の面白さがしっかりと発揮されるまで、1冊という分量は短すぎたのだと思う。実際1巻は話のスケールもまだまだ小さかったし、キャラクターもさほど多くなかった。物語がある程度の広がりを持ち、展開が幅を持つようになって初めて、『ゼロの使い魔』は、本当の意味で面白い話になったということだろう。*2


 断言しよう。名作である。
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*1:著者のキャラクターに対する思い入れは、5巻のあとがきによく表れている。

*2:一応、2巻以降は「ほぼ一気読み」という形を取ったため、それによって評価が若干左右された部分もあるかもしれない、とは書いておく。