「マブラヴ オルタネイティヴ」感想(補遺)

 オルタ感想リンク集の時にこっそりと書いていたことに対して、id:straizoさん、id:ton-booさんから反応をいただきました。ありがとうございます。
straizoの日記 - オルタの感想再び
東風記録帳 - 主人公の「生と死」に対する覚悟
東風記録帳 - 武@オリジナルハイヴ
 遅ればせながらおふたりの意見を拝読して思ったことなどをつらつらと。




 私もおふたり同様、最後の武と冥夜のシーンの流れについては批判的な立場です。しかしそれを言い出すなら、第10章全体が私にとっては納得しがたいものになる、ということになります。

 たとえば物語全体のテーマを考えたときに、私はあの戦いで武以外の全員が死ぬ必要はなかったと思っています。テーマ的には、彼女らに求められたていたのは「最善の死に方を選ぶ」ということでした。最終決戦時に、彼女ら全員がその境地に至っていたことは、9章までの流れで十分に伝わってきました。

 あとはそれを、実際の戦闘の中で実践するだけです。そして、それまで徹底的にテーマを突き詰めてきた以上、そうならない理由はどこにもありませんでした。私はただ、それを見守っていればよかったのです。

 私にとってあの第10章は、そんな、いわば物語における「答え合わせ」でした。実際、彼女たちはその信念に基づいた適切な行動をとっていったわけですが、もし、死ぬほどの危機に陥らず、最後まで生き残っていたとしても、言動から信念が揺らいでいないことさえ感じられれば、私の評価は変わらなかったと思います。10章が不要とまでは言いませんが、私にとってのマブラヴオルタは、ある意味9章までで終わって(完成して)いたのかもしれません。*1


 ただ、ここで問題になるのがやはり、最後に見せた武のためらいです。あの場面の意味については、結局のところ、武は最後まで冷徹には徹しきれなかった、ということなのだと思います。脱出後の会話の中で、霞がそのことを指摘しています。

「あなたは、作戦を最優先に考えて、他の全てを割り切ろうとしていました」

「でも本当は、作戦を成功させて、皆さんも救おうと考えていましたね」

「……でも、あなたがそういう人だから、皆さん頑張れたんですよ?」

「あなたがそういう人だからこそ、皆さんは人類のために、自分がやれることを精一杯やったんです」

 このエントリを書くために、最後のシーンを改めて見直してみたのですが、意外にも予想していたほど「躊躇しすぎている」という印象は受けませんでした。むしろ冥夜のほうが、最後の最後で個人的な感情を暴露したりして、いっそう武を迷わせるようなことをしています。

 作った側の意図としては、あの場面は目的のために冷徹になりきろうとしても、最後の最後では個人の感情が出てしまう、そんな人間の性を表現したかったのだと思います。しかし最後でそうひっくり返すには、それまでに彼女たちに感じていた「覚悟」に説得力がありすぎました。最後のシーンだけ見直して、さほど躊躇っていないように見えたのは、そこまでの展開が私の中に経験として残っていなかったからでしょう。

 というわけで、ラストシーンに批判的なのは変わりませんが、批判の方向性としては、「躊躇いすぎていること」ではなく「躊躇うことに説得力を持たせられなかったこと」ではないかといまでは思っています。それ以前に「躊躇うこと」そのものの是非についても考える必要はありますが、それはまた別の機会にということで。


 その他、一度自分の感想を書いたあとに考えたことなどを。

 エンディングについて。私はあのEDはハッピーエンドとも、夢オチとも思っていません。10章、オリジナルハイヴ帰還後の会話で霞が語っていますが、もともとアンリミテッド&オルタの世界に来たときの武は、エクストラで複数に分岐したすべての世界の武をひとつに統合した存在でした。武はその後、ループを繰り返すことでアンリミテッドのすべての物語の経験をも得ます。そしてオルタネイティヴの物語を体験後、すべての物語のスタート地点で再構成される……。

 一見なにもかもがなかったことにされたようなエンディングですが、そうした流れを経てあの結末に辿り着いたことが、逆説的にエクストラ、アンリミテッド、オルタネイティヴ全世界の物語がたしかに存在していたことを、何よりも強く訴えてきているように私には思えます。である以上、その結末を単純な「夢オチ」として割り切ることはできません。

 そして武がいなくなっても、オルタ世界での戦いは続いていく。そのことを考えると、あの終わりを単純なハッピーエンドとして片付けることは私にはできません。もっとも、ご都合主義的な「BETA全滅→大団円」などという流れよりは、そちらのほうがあの物語の結びとしてはよほどふさわしいと思います。

 ちなみに霞ひとりが記憶を持ったまま平行世界に来られたのは、霞だけが平行世界を観測できる存在だったから、だと思っています。そしてあの霞は、オルタ世界から分岐した、別の存在としての霞である(オルタ世界には変わらずそれまでの霞が残っている)、というのが私の考えです。エクストラ世界の皆がオルタの世界にも存在していたのとは逆に、エクストラ世界のどこかに霞が存在していてもおかしくはないわけですし。


 もう一点、回想モード等がない点については、これも演出の一環だと思っています。回想モードをつければ、いつでも好きなときに好きなシーンを見直すことができます。しかしそうした「あとからでも見直せる」システムの存在は、1シーン、1プレイの重みを薄れさせることになります。内容上、CG閲覧&BGM試聴モードはともかく、(Hシーン回想という意味での)シーン回想をつけてもあまり意味はない、ということもあったのでしょうが、アージュはそうした、1回きりの経験の重さというものを、この物語で感じて欲しかったのではないでしょうか。ストーリーが一直線と、もはや「ゲーム」ではなく、一本の「物語」になっていることも、それを裏付けていると思います。*2


 なんか後半は妄想炸裂の与太話になってしまいましたが、私自身改めて「いろいろと考えさせられるゲームだなあ」というのを実感しているところです。そしてその「考えさせられる」という一点だけをもってしても、オルタというのはつくづく「いいゲームだった」と思うのです。

*1:ちなみに先任士官たちの死については、元207の面々が、彼女たちの力だけで立って戦うまでに成長するために必要なものだったと考えます。

*2:本音を言えば、音楽モードは欲しかったところですが。