今のライトノベルをどうにかする必要はあるのか?

 なんか「今のライトノベルをどうにかしろ」という話がされているようで。

 最初は質の話だったのがいつの間にかいろんな問題がある、みたいな話になってますな。まあ、最初の話をきっかけに「ほかにも色々問題があるよ」みたいな感じに発展していったのだと思うので、その辺はいいんですけども。


 上のリンク先ではお三方ともそれぞれの立場から「ライトノベルをどうにかしろ」と仰っているわけですが、私自身は特にどうにかする必要があるとは思いません。この出版不況の中順調に拡大を続け、メディアミックス絡みとはいえ、シャナやハルヒのように百万部単位で売上を倍に伸ばす作品もある。要は売れているわけです。1冊あたりの売上が落ちようと、全体として売れ行きが伸びているなら、どうにかしようとはだれも思わないでしょうし、またそうする必要もないはずです。

 仮にどうにかする必要があったとして、それを我々読者が心配してやる必要があるとは思いません。読者にとっては、面白い本をできるだけ多く読めればそれでいいわけで、それさえ維持できれば、業界がどうあろうと無関係なはずです。kazenotoriさんなどは、ライトノベルの刊行点数は少ないと主張されているわけで、新規レーベルの参入が相継いでいるいまの状況は、むしろ歓迎するべき事態なはずです。

 業界そのものがなくなってしまったのなら、いま読んでいる作品が読めなくなるわけで、それはたしかに困ることかもしれません。しかしそれより先にある程度の淘汰が起きるであろうことを考えると、なにもかもが一気に駄目になってしまうとは思えません。もし本当に業界がなくなるときが来るとすれば、それはもうほとんどだれもライトノベルに関心を寄せなくなっているときでしょう。


 そもそもライトノベルを読んでいる人間が、業界の行く末を心配すること自体変な話でありまして。というのも、いまライトノベルを好んで読んでいるということは、ある意味いま現在のライトノベルのありかたを支持していることになるわけです。そうした支持がある限り、全体の方向性が変わるはずはありません。一方ライトノベルを読まない人間にとっては業界の行く末などどうでもいい話のはずで、要するに読者が業界の心配をする理由など、本質的にはないはずなのです。

 本当に多くの読者が「どうにかして欲しい」と思っているのなら、それは「売上の減少」という形ではっきりと現れるはずです。そうでないのは、そもそも「どうにかして欲しい」などと思っていない多くの読者――たとえば中高生――が支持して(=買って)いるからです。そして売る側も、そうした層に向けて本を作っている。「どうにかして欲しい」と考える人というのは、読者の中ではいわば異端なのです。

 つまるところ「どうにかして欲しい」と感じ、それを口にした時点で、その読者とライトノベルの間には、すでにある程度の距離感が生まれていると言えるのではないでしょうか。本の内容以外のことに気を取られて、ただ目の前にある本を楽しむことができないのなら、それはもはや、健全な読者とは言い難いでしょう。その矛盾を解消する方法はふたつ、口をつぐんで目の前の本に没頭するか、あるいはすっぱりとライトノベルを読むのをやめてしまうか、このどちらかです。

 業界の方向性というものは、いつだって消費者の傾向に合わせる形で変わっていきます。そこで違和感を感じる消費者というのは、ある意味そのメディアの消費者としての資格を失っている、という見方もできます。そのとき消費者がそのメディアにおける消費者をやめることは、業界と消費者、両者とってむしろ幸福なことなのではないでしょうか。特にライトノベルには、それに対する形での非ライトノベル小説がメディア的に近しい受け皿として存在するわけですし。


 もし読者の立場から「どうにかしたい」と思うのなら、無闇に「ライトノベル」というくくりで消費するのではなく、自分にとって、本当に面白いと思える作品だけを読む。そうしてたとえば、アンケート葉書に意見を書いて、出版社に送る。これが何より効果的でしょう。

 重要なのは「どうにかして欲しい」ではなく「どうにかしたい」ということ。売上がすべてに優先されるライトノベル(別にライトノベルに限った話ではありませんが)、読者が変わらなければ、おそらくはなにも変わりません。変わって欲しい、でも読者をやめたくない――ならば動くこと。何よりも、それが重要なことだと思います。*1


 ちなみに作品の質については、そんなものを期待してライトノベルを読むのがそもそもの間違いでしょう。


(追記)
というか冒頭リンク先下ふたつについては、本当にそうした問題が存在しているのか、存在するとしてそれは具体的にどういう問題なのかを先に突っ込むべきかも。

*1:この辺は政治なんかと一緒です。