ライトノベルを売る、ということ

 ここ数日話題になっている「ライトノベルを売るにはどうしたらいいか」という話について、自分なりに思うところがあるのでつらつらと書いてみます。ちなみに発端はこちらで、現在までの進捗状況はこちら。関連記事についてはこちらあたりから。




 前提としてはまず、ライトノベルが売れる店と売れない店がある。その上で、売れない店で売れるようにするためにはどうしたらいいか、というのが答えを求められている問題だと思います。で、それに対する私の解答ですが(私は書店員でも書店員経験者でもないので具体的な部分についてはなんとも言えないのですが)、少なくとも方針としては、「新規読者の開拓」というよりむしろ、すでにその店でライトノベルを買っていく人たちにいかにより多くの本を買わせるか、という方向で考えていった方がいいのではないかと思います。

 ライトノベルというのは、一般的に読者を非常に選びます。その装丁や内容の特殊性から、そもそも手に取ろうとする気さえ起きない、という人は、「ライトノベル」という言葉が少なからず認知されてきたいまも少なくないと思います。要するに、ライトノベルは「読む」と「読まない」の間に大きな壁があるということです。となると、まったくライトノベルを読んでいない人に新しく読ませようとするより、すでに読んでいる人により多く読ませようとするほうがまだ目はある、ということになります。*1

 実際、私の経験でこのようなことがありました。もちろんこういった企画を行うには書店員にライトノベルの知識が必要ですし、ドラスティックに売上が伸びることも少ないでしょう。行うにはそれなりの労力も必要ですし、同じことをやったところですべての店で効果が得られるとは限りません。ですが、少なくとも新規開拓にこだわるよりはまだ可能性があるのではないかと個人的には思います。どういった企画を行えばいいか、についてのヒントはネットを探せばたくさん見つかると思いますし。


 ただこの方法は、既にある程度(少なくとも新刊がコンスタントに捌けていく程度)ライトノベルが売れている書店ではある程度有効でしょうが、新刊すら売れない書店では効果は薄いでしょう。そうした書店は、正直なところライトノベルの取り扱い自体を辞めてしまったほうがいいと思います。ライトノベルは新刊が売れてなんぼです。それさえ売れないようなら、根本的に立地や客層に問題があるということになり、いよいよいち店舗、いち売り場ではどうにもならないところまで問題を遡らなければならなくなります。いち売り場の工夫で改善する可能性がある最低ライン、それが「(少部数ずつ入荷される)新刊がコンスタントに売れる」ということだと思います。

 繰り返しますが、私は書店員でも書店員経験者でもありません。言うは易く行うは難し、考えとしての正しさと、実際に行うこととはまた別の問題です。もしかしたら私の案は、内情を知らない人間だけが口にできる机上の空論なのかもしれません。ただ、売れ行きを改善するための方策が広く求められている中で、ライトノベルの売れ方というものを自分なりに分析してきた私が提案できるのは、だいたいこのあたりが精一杯です。今回の案が、中小書店の皆さんのお役に立てることを祈っています。


 で、ここからさらに一歩前提に戻る話になりますが、そもそも書店側にとって、こんな風な苦労をしてまで「ライトノベルを売ること」のメリットとは何なのでしょうか。駅の売店の文庫本コーナーでは官能小説が幅を利かせているように、立地や店の規模などによって、売れる本、売るべき本というのはある程度決まってくるように思います。それに逆らってまでライトノベルを売ろうとするからには、特に「ライトノベルであること」によるメリットがあるはずです。そうした理由がないのなら、そもそも「ライトノベルを売る」ということの意味について考え直すことが必要になってくると思います。

 もちろんライトノベルを買っていく数少ないお客のために棚を維持したいという気持ちや、個人的にライトノベルが好きだから、という理由で売り場を確保したいという思いもあるかと思います。しかし店としての売り上げを第一に考えるなら、売れないものを切り捨てるというのは当然の判断でしょう。その結果ライトノベルは大型書店および専門店*2でしか売れない(売られない)ものになっていくかもしれませんが、すでにそうした店に行かないと新刊が確実には手に入らない(=十分な数が入荷されない)という状況があり、またネット書店も発達しているいま、ライトノベルは大型書店で、というふうに分業制みたくしてしまうのも考え方としてはありなのかもしれない、とも思います。むしろライトノベルにこだわるあまり、売れないものに棚が圧迫されてしまうことのほうが問題かと。*3

 中小書店に限らず、ライトノベルの売上がどうなっていくかという問題については、個人的には正直どうでもいいと思っています。我々読者が「いま、ライトノベルと呼ばれているような作品」を欲しがっている間は、ライトノベルという言葉が消滅することはないでしょうし、またある程度の売上は保たれるでしょう。たとえ、いまライトノベルと呼ばれている作品がなくなったとして、欲しい人は他のジャンルの似た作品を探すでしょうし。そもそも、わざわざ「ライトノベル」としてくくらなければいけない作品なんてどこにもないわけです。ライトノベルに限らず、面白い作品がたくさん出るかどうかが問題なのであって、全体としての売上とかそういったことについてはあまり興味がない、というのが私のスタンスです。

*1:逆に、ライトノベル読者のライトノベルに対する指向性は高いように思います。これもまた、既存読者の購入量を増やす方向で考えたほうがいいと思う根拠のひとつです。

*2:アニメイトとかとらのあなとか

*3:というか私が中学生の頃は、地元の中小書店なんかはどこも申し訳程度にしかライトノベルを置いておらず、欲しい本を手に入れるには書店で注文するか、ある程度大きな街に行く必要がありました。そうした状況を思い返してみるに、むしろ「そもそもライトノベルは中小書店で売るものではない」というのが正しいのでは、という気もします。