ライトノベルにおける「入門書」とは

 ライトノベルとその「入門書」の話。

 まず思うのは、書いた人と文脈によって「入門書」の意味するところが微妙に違うなあ、と。

  • あるジャンルの作品を楽しむ上で必要な、そのジャンル特有のコードを理解するために読んでおくべき本
  • それまである作品群に触れたことのない人が、それに触れるにあたって最初に読むべき本

 前者は作品理解、後者は十分な知識のない人への指針としての「入門書」、ということになります。両者は互いに重なり合う部分もありますが、完全に等しいものでもありません。上のみっつのエントリではそのあたりがしばしば交錯しているようですが、私の考えとしては、前者は「存在し得ない」、後者は「いらない」といったところです。

 前者についてですが、id:akisue2さんやid:sukezaさんが指摘しておられるように、ライトノベルとは「体系づけられた」「ジャンル」ではありません。ゆえに共通のコードというものが存在せず、作品理解のための入門書も存在し得ない。今後「ライトノベル」の指し示すものが大きく変化すれば話は変わってくるかもしれませんが、少なくともライトノベルが現在のような捉えられ方をされている限りは、のちの作品を理解する上で必須と言えるほどの入門書は存在しない、というのが私の持論です。*1

 後者についてはまず、「ライトノベルを読む」とはどういうことか、という問題が前提としてあります。たとえばSF好きの人に「SFとしてよくできているライトノベル作品」を薦めるとき、その作品はすでに「SF」であって「ライトノベル」ではないと私は思います。SF的にすごいなら「SF」として紹介すればいいのであって、そこでいちいち「ライトノベル」という言葉を引き合いに出す必要はない、と思います。

 では何をもって「ライトノベルを読んでいる」と言えるのかというと、SFやミステリ、恋愛といったジャンルの垣根を越えた「ごった煮感」を許容できること、だと思います。言い換えれば、「SFとしてよくできているライトノベル作品」を薦められた人が、そこから「SFではないライトノベル作品」へとひと足跳びに跳べる素養のこと。あるいは(合う合わないは別として)『ブラックロッド』と『まぶらほ』を同じように許容できること。それこそが「ライトノベル読み」に必要な資質だというのが私のスタンスです。*2

 ときどき「○○好きに薦めるライトノベル」のような文章を見かけますが、私の視点からは、そういうものに頼っているうちは「ライトノベルを読んでいる」とは言えません。そこから脱却させ、広大なライトノベルの海に自ら漕ぎ出すきっかけを与えて初めて、「入門書」の役割を果たしたと言えます。ゆえにもし私がこれまでまったくライトノベルを読んでこなかった人に「ライトノベルというものを読んでみたいのでおすすめを教えてくれ」と言われたら、「本屋のライトノベルコーナーに行って、今月の新刊の中から気になる本を5冊選んで買って読め」と言うか、そうでなければ「このライトノベルがすごい!」か何かを渡して「気になった本を読め」と言います。

 その結果「もう二度と読まない」という人も出てくるでしょうが、それは結局のところ、その人にライトノベルを楽しめる素養がなかった、というだけの話です。口当たりの良い作品だけを読ませてお茶を濁すことももちろん可能でしょうが、そのような読み方しかしていない人を、私は「ライトノベルを読んだ」とみなしたくはありません。「本を薦める」という行為は、いわば「それまでその本を読んでいなかった人に、自分の価値観で選んだ本を押しつける」ことなわけで、そこまでやっておきながら最後、本を選ぶ段になって日和ってどうする、という思いもあります。本当の意味での「ライトノベル読み」を増やしたいのなら、まず最初に一番強烈な作品を読ませるべきであろうと思います。*3


 あと、同時に「自ら進んでではなく、他人の指針を糸口にライトノベルを読みはじめようとしている人」というのはどういう人なのか、というのを検討しないといけないわけですが、長くなったのでそのへんの話はまた別の機会に。

*1:むしろ漫画やアニメなど、他ジャンルの作品の中に探すべきかもしれません。

*2:もっとも今現在、「ライトノベル」とされている作品を主として読んでいる人たちも、実際のところは「好きだから、面白いから読んでいる」のであって、ライトノベルだから読んでいるわけではない(すべてのライトノベル作品を許容できるわけではない)のだと思います。その意味で、この考え方を厳密に適用すれば「ライトノベル読者」などひとりも存在しないことになりますが、そもそも私は「ライトノベルを読む」という表現は、「ライトノベル作家」と同様に非常に怪しげなものだと思っています。

*3:ライトノベルそのものを知らない人にライトノベル作品を読ませたいのであれば、ライトノベルそのものの知名度が高まればいい話であり、なおさら具体的な「入門書」を選び出す必要はありません。