早すぎた越境作家・三雲岳斗

 えー、三雲岳斗については前々からなんか書いておいたほうがいいと思ってたのですが、いい機会なので書いておきます。

 三雲岳斗がデビューしたのは1999年。デビュー作は第5回電撃ゲーム小説大賞*1・銀賞を受賞した『コールド・ゲヘナ』。同シリーズはその後も巻を重ねていきますが、一方で氏は、同年に第1回日本SF新人賞、第5回スニーカー大賞特別賞という、さらにふたつの新人賞を受賞します。同時期に複数の新人賞を受賞したケースとしては、現在では日日日が有名ですが、それより6年も前に、同様の偉業を成し遂げているわけです(ちなみにSF新人賞を受賞した『M.G.H.』では、ハードカバーへの進出を果たしています)。

 さてその後、三雲氏は電撃文庫で『レベリオン』、角川スニーカー文庫で『ランブルフィッシュ』、徳間デュアル文庫で『海底密室』『ワイヤレスハートチャイルド』などを発表。中でも特に『ランブル〜』は、全10巻、コミカライズもされる人気シリーズになっていきます。

 そんな中、三雲氏は双葉社から単行本『聖遺の天使』を出版します。これが2003年10月のこと。

  

聖遺の天使

聖遺の天使

 2003年10月といえば、桜庭一樹で言えば『EVE burst error』や『仮面ライダー555』のノベライズを発表した時期。『GOSICK』の1巻が出るより前の出来事です。当時、ライトノベル出身の越境作家として注目されていたのは、2002年に『GOTH』を発表した乙一くらいだったと思います(もっとも乙一はデビュー時から、「ライトノベル出身」と言い切ってしまうにはやや特殊な位置づけをされており、同列に扱うには少々ためらわれるのですが)。

 三雲氏はその後もライトノベルで活躍する一方、『カーマロカ』『旧宮殿にて』などの作品を、ライトノベルレーベル外で発表していきます。特に『聖遺の天使』『旧宮殿にて』は現在までに文庫化されており、キャリアの長さを感じさせます。2006年には『METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS』の脚本を担当するなど、小説以外の仕事もこなすようになっています。

 こうした事実からして、三雲氏もまた「越境作家」のひとりであるということが十分に言えると思います。しかし、あくまで私の印象ではありますが、桜庭一樹有川浩橋本紡壁井ユカコといった作家に比べて、ライトノベル読者からの三雲氏への注目は、非常に小さいように思います。少なくとも、上記のような極めて早い時期に「越境」を果たしていたというのは、十分注目に値する事実であるにもかかわらず。

 そうなってしまった原因は、結局のところ、当時はまだ「ライトノベル」というものを総体としてとらえるという視線が、読者の側にも備わっていなかったからなのだと思います。それでも十分な(それこそ直木賞を受賞するほどの)実績を上げていれば別だったのでしょうが、残念ながらそうはならなかった。結果、三雲岳斗は十分な実績を上げておきながら、越境作家のひとりに数えられることが少ない、という何とも言えない立ち位置に立たされることになりました。これがあと2、3年遅ければ、恐らく上記に挙げたような越境作家と同列に語られていたのではないでしょうか。

 その「越境」が早すぎたゆえに、実績を顧みられることの少ない作家。私の三雲岳斗に対する捉え方は、おおむねこんな感じです。その作品の評価についてはここでは触れませんが、とりあえず、その扱われ方そのものが、数年前と現在の「ライトノベル」の扱われ方の違いを示すサンプルのひとつと言えるのではないかと思います。