現在時点でのライトノベル系各新人賞の「当たり年」

 個人的には、新人賞全体を通して「これだ!」といえる年は今のところ見あたりません。年ごとの当たり外れはもちろんある程度はあるでしょうが、その中で突出してこの年、といえるほど目立つ年は、少なくともリストを眺める範囲ではないように思います。まあ、これだけ新人賞があるんだから当然といえば当然ですし、影響力という点では、豊作だったか否かより、作家単位、作品単位で見たほうがいいとも思いますし。

 ただ、全体としてではなく、各新人賞単位なら「この年が一番の当たり年!」というのをある程度絞り込めるのではないかと思いました。ということでまとめてみたのが下のリストです。

 基準としては「現在でも作家として活動している人が多い」というのを基本に考えました。もちろんその中で売れている(売れた)作品を書いた人がいればその分ポイントは高くなります。また継続性を見る観点から、ここ2、3年の回についてはそもそも念頭にないような部分があります。

「レーベルにとっての」当たり年、という縛りをつければまた結果は違ってくるでしょうが、ここではひとまず作家単位で見てみることにします。なお、これはあくまで「現時点での」「私の主観による」結果ですので、今後内容が変わってくる可能性はいくらでもあります。また「自分はこう思う」という意見ももちろん歓迎です。

 では早速いってみましょう。

 上遠野浩平橋本紡阿智太郎。名前を見ただけでもうこれしかない、という感じです。前ふたりはライトノベルの枠を少なからず広げたということで、長期的に見ても大きな影響力のあった作家といえます。ライトノベル系ブログとかだとこの3人の中では阿智太郎の扱いが一番小さいと思われますが、10年近くコンスタントに作品を出し続けていて今なお『陰からマモル!』というヒット作を書き続けている点は特筆に値します。ライトノベルという総体を考えるときには、いずれきちんとスポットを当てる必要のある重要な作家だと思います。

 神坂一冴木忍というだけで迷わず第1回と言いたいところですが、それだとちょっと芸がない。第6回(滝川羊夏緑川口大介南房秀久)というのも考えましたが、現在の状況を考えるとちょっと無理がある。ということでここは大人しく榊一郎あざの耕平を輩出した第9回を。『BBB』であざの耕平にハマった人はぜひその前の『Dクラッカーズ』、さらにその前の『神仙酒コンチェルト』までさかのぼっていただきたいところ。ネタ的には成田良悟を6年も先取りしていたのですよ。

 歴史が浅いということもありますが、第1回が順当なところでしょう。ここからデビューしたふたりはともに、その後別レーベルで才能が開花した感じです。もっとも、レーベルへの貢献度でいえば第2回(時海結以師走トオル)、第3回(田代裕彦壱乗寺かるた)が上回ります。

 各年それぞれ挙げるべき名前はあるものの、それがふたり以上となるととたんに言葉に詰まってしまう、そんな感じのスニーカー大賞。やや最近すぎる気もしますが、浅井ラボ仁木健の第7回が適当なところでしょうか。今後としては、六塚光水口敬文のふたりがそろってシリーズを完結させ、ともに新シリーズをスタートさせた第9回に期待したいところです。

 広い目で見れば第5回、レーベル的には第6回。第5回は米澤穂信滝本竜彦のデビュー回ということで、ライトノベル外へのアピールという点では今回挙げた中で随一かもしれません。さらに林トモアキ野島けんじもデビューしており、バラエティー性も高。第6回からは椎野美由貴岩井恭平という、現在のスニーカー文庫を支えるふたりがデビューしています。

 消去法でっつーかだんだん面倒になってきたのでこのあたりで。といっても桜庭一樹神野オキナがデビューしてることを思えば無茶な選択でもないでしょう。あとせっかくの機会なんで書いておくと「文学少女〜」を読んで野村美月を知った人はぜひそれ以前の作品にも目を通して欲しいと思います。田口仙年堂が出てくるまで、生え抜きの新人としてレーベルを引っ張っていたのは間違いなくこの人でしょう。*1

 海原零桜坂洋で順当。まあまだ歴史も浅いですし。このあたりになると、本当に「今のところは」としか言えなくなりますね。


 ライトノベルは回転数が早いので、一時期話題になった作品もすぐ忘れ去られがちです。たまにはこんな風に昔を振り返って、過去の作品を読み返すきっかけを作れればいいなと思います。*2

*1:デビュー作の『赤城山卓球場に歌声は響く』なんて「巫女が卓球」ですよ。設定の思い切り具合では、むしろこのころのほうが強かったと思ってます。

*2:こういうこと書くと「懐古趣味かよ」とか「『俺はお前らの知らない昔の作品を知ってるぜ』的自慢か」とか思われそうですが(いや、思われないならいいんですが)、別に読めと強制するつもりはありません。単にこれが、本との出会いのきっかけのひとつになれば、と思って書いている次第です。ただひとつ付け加えるなら、ネット上には自分と違う考え方や、自分の知らない知識を持っている人がたくさんいるわけですから、積極的にコミュニケーションを交わしたりはしないまでも、そういう人から知識や考え方を盗んで、より深い考え方ができる人が少しでも増えてくれたら、とか思ったりはしてます(自分に言い聞かせる意味も込めて)。