富士見と電撃の盛衰に見るライトノベルの消費構造変化

 この中にある「電撃が時代性にマッチし、富士見は遅れている」というのは私が書いていたことですので、これに関して少々補足を。識者の方々にとっては割と常識的な話かとも思いますが、そうでない方もいるでしょうし、一度文書として起こしておくことにも意味があると思いますので、しばしお付き合いいただければ幸いです。


 いまでこそライトノベルのトップレーベルとして認められつつある電撃ですが、多くの方がご存じの通り、かつては富士見ファンタジア文庫がその座に着いていました。その独走ぶりはいまの電撃の比ではなく、*1当時はほぼ完全に富士見の天下だった、と言っても過言ではないと思います。それがいつからいつまでか、というのは諸説分かれるところかと思いますが、少なくとも「スレイヤーズ以降、ブギーポップ以前」であるのは確かだと思います。

 『ブギーポップは笑わない』が発売されたのは1998年2月。この時点で『スレイヤーズ』が24冊、『魔術士オーフェン』も15冊が刊行されています。*2。当時すでに、ともに押しも押されぬレーベルの看板作品。総売上も、その後出てきたヒット作品の比ではないと思われます。*3

 この背景には、当時はそもそもライトノベルの刊行点数自体が現在よりはるかに少なかったという事実があります。単純にレーベル数や各レーベルの月ごとの刊行点数が少なかっただけでなく、ノベライズの比率が今以上に大きかったため、オリジナル作品だけでいえば、恐らく現在の半分以下の数しか出ていなかったと思われます。当時はいまほど、ライトノベルを中心に読む大人は多くなく(むしろ非常に少なかったと思われます)、中心読者である中高生は経済的に少数の作品しか購読できないため、自然、一部の面白い作品に人気が集中するという、一極集中型の消費構造が存在していたと考えられます。

 しかし『ブギーポップ』以降、富士見以外のレーベルでもレーベルの核となる作品がぽつぽつと出てくるようになりました。*4さらに同年にファミ通文庫、2000年にスーパーダッシュ文庫、そして2002年にはMF文庫Jが創刊され、ライトノベルの刊行点数は増加の一途をたどっていきます。加えて読者の側でも、高齢化とそれに伴う資金力の増大や、(より最近では)ネット書店の発達によって、作品選択の幅が広がってきました。*5

 こうした流れによって、ライトノベルの消費構造は、これまでの一極集中型から薄利多売型へと移行していったと考えられます。「電撃が時代性にマッチし、富士見は遅れている」と書いたのは、つまるところこうした消費構造の変化をいち早く察知し、対応したか否か、ということなのです。具体的には当然、作品内容やイラストの話、ひいてはマーケティングの話になっていくわけですが、それらが最終的に何に繋がっていったかをひと言で書けと言われたならば、私は「消費構造変化への対応の差」であると答えます。


 現在、後発のファミ通、スーパーダッシュ、MFあたりを中心に、電撃の成功を受けて、それに追随するような傾向が見られます。*6こうした流れもあって、しばらくは電撃路線が主流になると思われます。次に大きな変化が現れるとしたら、もう少し世代がシフトしたころ(7〜8年後?)くらいでしょうか。そのころにはさすがに「萌え」などもメイントピックではなくなっているのではないかと思いますし、ライトノベルを取り巻く状況もまた少し違ったものになっていることでしょう。*7

*1:現在が電撃の独走状態である、という意味ではありません。個人的には、たしかに電撃はトップであるものの、全体としては群雄割拠と呼ぶべきだと思っています。

*2:それぞれ「すぺしゃる」「無謀編」含む

*3:ともに未確認ではありますが参考:http://grev.g.hatena.ne.jp/keyword/%e7%99%ba%e8%a1%8c%e9%83%a8%e6%95%b0%e3%81%ae%e3%82%b7%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%ba%e7%b7%8f%e8%a8%88?kid=75#p1

*4:1998年には『ブギーポップ』以外にも、スニーカー文庫から『ラグナロク』の1巻が、富士見ファンタジア文庫からも『フルメタル・パニック!』の1巻がそれぞれ刊行されています。

*5:地方の小さな書店では、ライトノベルは一部の人気作しか入荷されなかったりします。

*6:具体的には作品内容・イラストや、レーベル生え抜きの新人を重要視するような傾向。

*7:なお、文中に挙げた各作品の刊行年の調査にあたっては、ラノベの杜のDB検索を大いに活用させていただきました。非常に有用なデータベースの作成によって、考察にかかる手間を以前よりはるかに軽減してくださった関係者の方々に、この場を借りて感謝と敬意を表します。