「なぜ電撃は勝ち、富士見は負けたのか」への突っ込み

 元の記事は↓こちら。

 単純な売上では電撃>富士見であることは間違いないでしょうし、理由についてもある程度的を射ていると思います*1が、大小いろいろと気になるところがあったので。




 まずメディアミックス(アニメ化)に関してですが、これは製作会社側から「この作品をアニメ化したい!」というオファーがあった結果アニメ化、というケースも多いので、一概に出版者側の戦略によるものとは言い切れません。むしろ最近ライトノベルのアニメ化が急に増えたのを見ると、そちらのケースのほうが多いように私には思えます。*2

 アニメを作るには相当な資金と人手が必要なので、出版者側がアニメ化したいと考えた作品が必ずしもされるとは限りません。ゆえに出版者側も、そこまで積極的にアニメ化を推し進めようとしているわけではない、と見るのが自然でしょう。*3

 またこれに伴い、「電撃は売れていなかった作品を売るために作品をアニメ化している」という説についても、アニメ化までには出版社だけではなく様々な人や組織の思惑が絡む、という理由から、必ずしもそうとは言い切れないということができます。ただ、少なくとも『灼眼のシャナ』に関しては、アニメ化当時『ブギーポップ』『キノ』に次ぐ電撃の稼ぎ頭だったことは間違いない*4ところであり、コメント欄の、

いや、売れてたことは売れてましたが、看板といえるほどではなかった。今で言えば禁書目録か9Sくらいの位置だったと思います。

というのは事実にそぐわないかと思います。

 そもそもライトノベルのアニメ化作品というのは、今年に入るまでその膨大な刊行点数に比して非常に少なく、数少ないアニメ化作品の多くはすでにかなりのヒットを飛ばしている作品でした。もちろん中には「なんでこれが?」と思うような作品がなかったわけではないですが、それはすでにアニメ化されてしかるべき人気作、話題作がすでにアニメ化されている上での話であり、「ヒットor話題に→アニメ化」という基本的な流れはいまも昔も、そして電撃文庫でも変わりはありません。このあたりはむしろこちらの、

「メディア展開しても、それなりに成功が見込まれる『質の高い作品』が多いから」

という考え方のほうが的を射ていると思います。


 あと電撃小説大賞の応募数ですが、1771というのは長編部門のみの応募数で、短編も合わせた総数は3542で間違いありません。短編で大賞を受賞した作品がないことから長編のみを考慮するという考え方はわからないではないですが、電撃は短編集形式の作品や、電撃hp短編小説賞からの作品の中にもヒット作はあり*5、むしろ短編部門の存在こそが電撃の層の厚さの源泉となっているという考え方も十分可能だと思います。*6


 結果論的な言い方になりますが、結局のところ電撃>富士見となった理由の最たるものは、電撃の方向性が時代にマッチした、ということなのではないかと。イラストやデザインにも力を入れている電撃に対して、富士見は相変わらずまったく同じ表紙デザインやレイアウトですし。少なくとも作品レベルで原因を探るなら、単純な作品内容だけでなくこうしたデザイン・イラスト面からの考察も必要でしょう。

*1:というか、ご本人も書かれているように単純に「これ」とひとつに決めることはできないでしょう。

*2:2004年末からのブームによってライトノベル全体の知名度が上がり、製作会社側が良質なアニメ原作供給媒体としてライトノベルに注目しはじめた、という話。

*3:実際、アニメ関係の仕事をしている知人の話では、出版社によってはなかなかアニメ化にゴーサインを出さないところもあるそうです。

*4:参考:http://headlines.yahoo.co.jp/ranking/php/book/050921/g.html ちなみに『シャナ』と『禁書目録』が発売された2005年11月のランキングはこんな感じ→ http://headlines.yahoo.co.jp/ranking/php/book/051122/g.html

*5:キノの旅』『撲殺天使ドクロちゃん』『いぬかみっ!』『乃木坂春香の秘密』など

*6:少なくとも、例として挙げられている第12回では、短編として応募された『超告白』が最終選考に残り、のちに『天使のレシピ』として刊行されています。