アニメ放映記念SS『狼とベッドヤクザ』

  • 実在の物語、賢狼、商人などとは一切関係ありません
  • ないったらないってば
  • アニメ放映記念? まあこの冬放映開始したアニメはたくさんありますからねえ
  • それにしてもひどいタイトルだ
  • 見どころは文体模写しようとしてあっさり飽きてるところ
  • 何の文体模写?<聞くな
  • それにしても重ね重ねひどいタイトルだ
  • それでは、どうぞ
                                                          • -

 他人に食べ物を奪われない最良の方法は、腹に収めてしまうことだ。

 万物を見通す神の目も、人間の胃の中までは届かない。

 ならば、食べたいものはさっさと口に入れてしまうに限る。

 逆に、これ見よがしに置いておけば、いつ食べられてしまっても文句は言えない。

 相手が食い気に満ちているならば、なおさらのこと。

 だから、やっとの思いで手に入れた貴重な果物を、自分はひとつも口にしないまま相方が食べ尽くしてしまうのも、当然のことなのだろう。

「まったく、どうしてお前は……」

 それでも、食べる前にひと言くらいあってもいいのでは、と思う自分は、果たして甘すぎるだろうか。

「俺がどんな思いであれを手に入れたか、お前は知ってるのか?」

 相方の望みに応え、やっとのことでひと籠分の果物を手に入れたあと。用事を思い出し、半刻ほど外出して戻ってきた彼を出迎えたのは、珍味を腹一杯に詰め込んでご満悦の相方の姿だった。

 冬のこの時期、ただでさえ果物が手に入りにくいのに、相棒の眼鏡にかなう逸品を見つけるのに、彼がどれほどの苦労を費やしたか。

 すり減らした靴の底は、恐らく丸一日分ではきくまい。

 宿に戻り、空になった籠を見たときの脱力感は、当分忘れることはできないだろう。

「何を言っておる」

 もっとも、相方の少女には悪びれた様子は微塵もない。

 ふくれた腹をさすりながら、素知らぬ顔で主張する。

「あれはわっちが所望して、わっちのためにぬしが買ってきたものじゃろ。わっちが食べてしまって何が悪い」

「だからといって、全部食べてしまう奴があるか。少しは残しておくとかいう気遣いが、お前にはないのか?」

「なんじゃ、ぬしも食べたかったのかや」

「当然だ」

「そんなに食べたかったのなら、出かける前にさっさと食べておけばよかったろうに」

 お前のほうが悪い、と言わんばかりの口調で、尻尾をはたりと振る。

「帰ってからゆっくり食べようと思ってたんだよ。せっかくの掘り出し物だ。味わって食べないともったいないだろう」

「帰ってから、とな。そんなにわっちと一緒に食べたかったかや」

 明後日の方を向いたまま、目だけを彼に向けてくる。

 口元にうっすらと笑みを浮かべた横顔には、思わず首を縦に振ってしまいそうな魔力がある。

 実際、出会ったころの彼なら、その視線ひとつで言葉を詰まらせていただろう。

 だが、大概付き合いも長くなった今となっては、彼のほうもこの程度のことでは動じない。

 こんなとき、どう言葉を返せばいいかはとうに心得ている。

「側で見ていないと、さっさと食べられてしまうからな。ま、結局は、お前の食い意地が俺の予想を上回っていたわけだが」

 少女はむ、と頬を膨らませる。

 反論がないところを見ると、咄嗟に言い返す言葉が思いつかなかったらしい。

 少しばかり下がった溜飲に、頬をゆるめかけた彼だったが――直後、ふたたび表情を引き締めることになった。

 少女が、何かを思いついたような笑みを浮かべたからだ。

「そんなに食べたかったかや」

「……あたりまえだ」

「そうか」

 満足げな返答。その口調に、彼はふと、不吉なものを感じる。

 咄嗟に少女から身を離そうとするが、一歩を踏み出したところで危うく転びそうになる。

 いつの間に伸ばしていたものか、少女の手が彼の服の袖をつかんでいた。

 慌てる彼に身を寄せ、少女はその腕をぎゅっと抱きかかえる。

 少女に寄りかかるような形になり、思わず振り返った彼を、彼女の上目遣いが出迎えた。

「ならば」

 悩ましげな視線が、彼の目を射抜く。

「果物の代わりに、わっちを味わってもよいのじゃぞ」

 彼が少女の正体を思い知るのは、こういうときだ。

 見た目こそ、まだ年若い少女の姿。しかしその内には、齢数百を数える賢狼の英知がひそんでいる。

 幼い少女の見せる、艶めいた仕草。

 その落差が醸し出す色香に抗うのは、しばし旅をともにしてきた彼とて容易ではない。

 口にするべき言葉を、彼は失う。

 それでも何かを言い返そうと口を開いた、そのとき。

「その代わり」

 刺すような声音で、少女が告げた。

「あとで腹をこわしても知らんせん。美味いものには、毒があるそうじゃからな」

 くふ、と含み笑いを漏らす。

 あっけにとられる彼を尻目に、少女はするりと腕をほどく。寝台に身を横たえると、ついと流し目を送ってくる。

 そのときには、表情は彼をからかっておもしろがるときの、要するに普段のものに戻っていた。

 その顔が、何よりも雄弁に告げている。

 口でわっちに勝とうなど、何百年かばかり早い、と。

「…………」

 いつもの彼ならば、このあたりで白旗を上げていたことだろう。

 表向きは憎まれ口を叩きながら、心の中では敗北を認めていたに違いなかった。

 だが、この日は違った。

 一日中歩き回った疲れで、感情の制御が鈍っていた。

 貴重な逸品を口にできなかったという、怒りもあった。

 ふたつの理由が泥水のように混じり合い、黒く、重い感情となって、彼の身体を蝕んでいく。

 そしてそれはやがて、ひとつの結論を彼にもたらした。

「そうか」

 自分でも、驚くほど平板な声が、口から漏れる。

「なら、仕方ないな。あとのことは覚悟しておこう」

「……え?」

 少女は珍しく、本当に珍しく、気の抜けた表情で彼を見上げた。

 その隙を見逃す彼ではない。

 少女の肩を掴み、寝台の上に押し倒す。

 小さな体躯が、押されるがまま仰向けに転がった。

「ちょっ……な、なにを……」

 少女は慌てて起きあがろうとする。

 その肩をつかみ、ふたたび寝台に押しつけた彼は、そのまま彼女に体重を預けた。どちらかというと細身の彼だったが、それ以上に華奢な少女は、大の男一人分の身体を押し返すことはできない。

「味わっていいといったのはお前だろう?」

「だ、だから、毒が……」

「世の中には、毒とわかっていて、それでも食べたくなるほど美味いものもあるんだよ」

 なおも暴れる少女を、彼は片腕と己の体重で押さえ込む。

 そして、もう一方の手で、服の上から少女の身体をなぞった。

「ひぁっ」

 彼がこれまでに聞いたことのない高い声を上げ、少女が身をのけぞらせた。それまで抵抗を続けていた、少女の腕から力が抜ける。

 彼は続けて、少女の身体を撫でていく。

 抱けば折れてしまいそうなほどに細いその身体は、しかし、服越しでもわかるたしかな弾力を秘めていた。

「こ、この……や、やめんかっ……」

 怒りを孕んだ拒絶の言葉が、いまは甘美な蜜のように心地いい。

 沸き上がる感情が求めるままに、彼は指をうごめかせる。

 髪の生え際から、膝頭の裏まで、指先が少女の肢体を余すところなく堪能していく。

 彼の手が滑るたび、少女は踊るように身をよじった。

 腕の力が弱まり、次第に抵抗どころではなくなっていく。

「どうした、毒があるんじゃなかったのか?」

「く……この……」

 からかうように囁く彼を、少女は涙目でにらみつけた。

 白魚のような指が拳を形作り、少女の頭上に振り上げられる。

 そのまま、彼の脳天を打ち据えるつもりなのだろう。

 まともに当たれば、少女の細腕でも彼の動きを十分止められたに違いない。

 だから、彼はそっと息を吹きかける。

 美しく光る亜麻色の髪に包まれた、少女の頭。

 その頂にぴんと立った、狼の耳に。

「うあっ」

 甲高い声を上げて、少女が背を反らした。

 しびれるような感覚が少女の全身を包み、拒絶するための意志と力を根こそぎ奪い去る。

 ぴくぴくと震える耳を弄ぶように、彼は立て続けに息を吹き込んでいく。

「この……たわけが……や、やめ……」

 吐息が産毛を揺らすたびに、少女は彼の腕の中で、赤子のように啼いてもだえた。

 いやいやをするように左右に揺れる耳を追いかけて、彼はゆっくりと口を寄せていく。

 やがて、彼の唇が少女の耳に触れた。

 軽く歯を立てると、薄い唇から、あ、とか細い声が漏れた。

 少女の頭がのけぞり、しみひとつない、白い喉があらわになる。

 その美しい曲線を、彼はそっと唇で撫でていく。

 喉から鎖骨へ、鎖骨からうなじへ、うなじから背筋へ。処女雪の上に、一歩一歩足跡をつけていくように、白い肌に唇の跡を刻んでいく。

 もちろんその間も、手のひらで少女の身体を愛でることはやめない。

 金貨を数えるときのように、丁寧に、繊細に。

 商人にとって、時として命を賭けるに値するほど大事な金。

 もしかすると、それを扱うとき以上に、少女を扱う手つきは優しかったかもしれない。

「んぁ……ぅん…………はぁっ…………」

 にもかかわらず、それともだからこそ、だろうか。あっけないほど簡単に、少女は抵抗を止めた。

 薄く開いた口から、途切れ途切れに喘ぎ声がこぼれる。

 かろうじて両の手が彼の服を掴んでいるが、それさえも引き離そうというより、離れないで欲しいとせがむ仕草に見える。

 そこにはもう、悠久の時を生きる神の面影はない。

 自身の変化にとまどい、震える、小さな少女が一人いるだけだった。

 思わず、普段口にしないような言葉が、彼の口から漏れる。

「……可愛いな、お前は。本当に」

「そんな、たわけた…………ことをっ……」

 いつもなら、目を吊り上げて睨みつけてくるところだが、返ってきたのは弱々しい返事。

 その言葉に、抵抗する力が残っていないと悟った彼は、より積極的に少女を愛撫しはじめる。

 そのとき、彼は少女の身体の中で、まだ一箇所、触れていないところがあることに気づいた。

「……そういえば、こっちはどんな味がするんだろうな」

「え…………?」

 少女の目は、いまや完全にとろけきっていた。

 それが、熱に浮かされたようにふらふらと彼の視線を追い、その意図するところを理解する。

 赤く上気した頬が、一瞬で蒼白になった。

「や、やめてくりゃれ、い、いまそんなことをされたら、わっちは……」

 今にも泣き出しそうな顔で懇願する。

 いまだかつて彼が見たことのない、見た目相応の少女のような、弱々しい表情。

 しかしそれも、このときばかりは彼の被虐心を煽る役割しか果たし得なかった。

「心配するな」

 少女の下半身へそろそろと手を伸ばしながら、彼はその耳に唇を近づけた。

 ぴくり、ぴくりと震える耳に、優しく言葉を吹き込む。

「痛くは、しないから」

 同時に、根本から先端まで一気に撫で上げる。

 たっぷりと毛に覆われた、狼の尻尾を。

「――――!」

 声にならない悲鳴が、白い喉から迸る。

 少女は一度、びくんと身を震わせ――

 やがて、脱力したようにぐったりと寝台に倒れ込んだ。

「あっ……はっ…………」

 薄い胸を上下させ、息を荒げる少女を見下ろしながら、彼はようやく身体を離した。

 窓から差し込む月光が、少女の身体を照らし出す。

 青白い光の下にあって、少女の顔はそれとわかるほど赤かった。

 汗の浮いた額に、髪の毛が数本貼りついているのが艶めかしい。

 静まりかえった部屋の中で、切なげに目を閉じた少女の、荒い呼吸の音だけが響いている。

 我知らず、彼は喉を鳴らしていた。

 熱を帯びた少女の肢体と、自分が少女をそうしたのだという実感。

 それが彼に、かつてないほどの興奮をもたらしていた。

 いまならどんなことでもできるような、そんな気がした。

「……これで終わりじゃないぞ。これからがメインディッシュだ」

 十分に少女を愛でたせいか、それとも興奮のためか、喉が異常なほど乾いている。

 絞り出した声は、自分でもはっきりとわかるほどかすれていた。

「どんな食べ方がお望みだ? 内容次第じゃ、希望に応えてやらないでもないが」

 わざわざ尋ねたのは、はやる気持ちを少しでも抑えるためだったかもしれない。

 腕の下に少女を組み敷いて、彼は少女からの答えを待つ。

 うるみきった瞳が、ゆっくりと開き、正面から彼を見つめる。

 次の瞬間、彼の全身を柔らかさが包む。

 少女の腕が、彼の身を抱き寄せていた。

 息を呑む彼のすぐ耳元で、呆れたような呟きがこぼれる。

「……ほんに、ぬしは愚か者じゃの。獲物を前に、どんな風に食べられたいか、などと訊く者がいるかや」

 息の温度こそ、先の行為の余韻を色濃く引きずっていたが、口調はすでに、普段のそれを取り戻していた。

 努めて強気な声音で、彼は言葉を返す。

「捕まった獲物がかわいそうだったんでな。せめてもの慈悲ってやつだ」

「などといって、余裕を見せておると手痛いしっぺ返しを受けるやもしれぬぞ?」

 こんな風に、と少女が首筋に牙を立ててくる。

 肌に触れる程度の、ごく軽い甘噛みだったが、突き立てられた側はたまったものではない。

 思わず上がりかけた悲鳴を隠すように、声を荒げる。

「ひ、卑怯だぞ」

「何がじゃ」

「しっぺ返しができるのは、捕まえたばかりの獲物だろう。俺はもう、お前を一度檻の中に閉じこめた。そこから牙を立てられるはずがない」

「……そうじゃな。まったくもって、ぬしの言う通りじゃ」

 くふふ、と笑う。

「わっちはすっかり、ぬしの檻の中じゃ……」

 その声に、取り込まれた悔しさはない。

 むしろ、そんな自分の境遇を心地よく思うような響きがあった。

「では、この賢狼を見事檻に閉じこめた智慧と、その相手に慈悲をかける愚かさに免じて、先の質問に答えてやろう」

 そう言って、少女は腕に力を込めた。

 ふたりの身体が、さらに密着する。

 薄い胸を通して、少女の高鳴る心音が伝わってくる。

 けれどきっと、自分の心臓はそれ以上に早鐘を打っているのだろう。

 そう考えて、彼はほんの少し頬を赤らめた。

 そんな彼の心情を見抜いたように、少女はまた、くふ、と小さく笑みを浮かべる。

 そうして、とろけるような、甘い声でこう言ったのだった。

「やさしくしてくりゃれ……?」

 頬にかかる、焼けるように熱い吐息。

 胸いっぱいに吸い込まれる、亜麻色の髪の香り。

 しっかりと背に回された、細い腕のぬくもり。

 そして、頭の中に直に染みこんでいくような、優しい声。

 その声に、その言葉に抗える雄がいるならば、心の底から見てみたい、と彼は思った。

 彼は再び、少女の身体に手を伸ばす。

 先ほどよりいささか乱暴なその手つきを、少女はもう、拒むことはなかった。


 その夜、宿の一室からは、狼の鳴き声が一晩中響いていたのだった。