ボクだけのせんせい姉妹
最初に断っておく。
この作品の主人公は弘太郎ではない。ましてや女教師三姉妹でもない。1冊の魔道書である。
魔道書――『インキュバスの大目録』。
潔癖すぎる三姉妹を適度にエロエロにするために、彼女らの祖父が弘太郎に託した1冊の書物。
その力は絶大にして無比。主の命には粛々として従い、その望みを叶えるため、あらゆる道具を瞬時にして虚空より生み出す。自らの意志を持ち、自在に空間を行き来する、まさに万能の魔道書である。
道具を生み出す目的がエロ限定、ということを除けば。
18禁版ドラ○もんとも言うべきこの驚異の魔道書。その力は、すさまじいの一言に尽きる。
例えば『彷徨する蛾のクリーム』。このクリームを手に塗ると、空間を飛び越えて好きなところを触ることができる。服の中や、見えないところも自由自在。相手は、見えない相手の生み出す快楽に抗うことは決してできない。
例えば『躾けられた牝犬の首輪』。この首輪をつけた人間は、他人の目に犬として映るようになる。どこから見てもかわいらしい犬にしか見えなくなるため、人前に出れば触られ放題。犬好きの人間や、子どもたちに囲まれた日には、羞恥と快感で彼岸まで行き着いてしまうこと必至である。
こんな道具が次々と登場しては、三姉妹を性の虜へと変えていく。まさにドリーム。まさにファンタジー。中二レベルの妄想が、魔道書という力を得て、今ここに現実のもの*1となったのである。
はっきり言おう。アホだ。(褒め言葉)
万事がそんな調子で進むため、ストーリーは当然あってなきがごとし。貞淑だった三姉妹は、ひとり、またひとりと、なすすべなく弘太郎(というか魔道書)に屈していく。ライバルが出てくることもなければ、魔道書が使えなくなるようなこともない。魔道書の力によって、女教師三姉妹が堕ちていくのを楽しむ、本当にただ、それだけの話なのである。
だが、それでいいのだ。
数多くのライトHノベルの中でも、ここまで開き直ってご都合主義に徹した作品はそうそうない。そんな、良心にも似た心の枷を取り払ったとき、人はここまでアホな(重ね重ね褒め言葉)設定を思いつけるのか。そこに私は、エロに賭ける人の業の深さを垣間見た。そしてそれに気づいたとき、己の身体が感動に打ち震えるのを感じた。*2
この作品は半端な妄想力では生まれ得ない。ご都合主義などという言葉を鼻で笑い飛ばす、『インキュバスの大目録』があって初めて成立する物語なのである。
ゆえに私は断言する。
この作品の主人公は弘太郎ではない。ましてや女教師三姉妹でもない。1冊の魔道書である、と。
さて、これを読んでいる方々も、そろそろこの『インキュバスの大目録』が欲しくなってきたころではないだろうか。
ちなみに私は欲しい。
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