第12回電撃小説大賞受賞作一気読み

 なんか今年は豊作だったらしいんで、せっかくでってんで一気に読んでみました。*1さすがにひと晩で、ってわけにはいかなかったですが、なんとか読み切ったんで感想をば。上から読んだ順です。

  • スポ根弓道少女ものだそうです

火目の巫女 (電撃文庫)

火目の巫女 (電撃文庫)

 銀賞そのいち。

 時代的なものだとか鳴箭の「音」とか、色々魅力的な設定はあるのにそれを生かし切れてない感じ。火目の謎についてもどさくさに紛れてうやむやになってしまった感じだし。オーソドックスなストーリーラインを丁寧になぞっているのはいいんだけども、もうひとつ何かパンチの効いたものが欲しい。良くも悪くも普通、といった感じ。

  • クライマックスでデジャヴュを感じたんで何かと思ったら『ダブルブリッド』&『キーリ』でした

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

 銀賞そのに。

 現実との整合性とかはともかくとして、商売、それも通貨制が完全には確立していない時代の商売というものを話の核に持ってきているのがまず面白い。実際に取引をする前、水面下での行動が勝負を決するという商売の構図は、一般的な戦闘とも舌戦とも違う戦略戦的な面があって非常に新鮮だった。なんやかやとへたれっぽいところもあったロレンスが、いざというときに鋭さをみせるとこなんかも好感が持てる。ホロのキャラについては言うまでもない。

 今回の4作の中で一番面白かった。満足。

  • 電撃hpのインタビュー見る限り作者は女性のようです

哀しみキメラ (電撃文庫)

哀しみキメラ (電撃文庫)

 金賞。

 なんか色々「火目の巫女」とかぶってて既視感が。特殊な力を持つ何人かが、やがてその力をどう扱うかで考えが分かれてそれぞれの道へ、という構成が一緒なんですな。ただこっちのほうがあれこれ引っかかるところが多くて、七倉は考えなさすぎだろうとか、身体のことはもうちょい早よツッコミなさいよとか、まあ色々。陳腐な表現ですが、決定的な部分で人間が書けてない、みたいな感じでしょうか。

 やっぱり良くも悪くも普通。あとタイトルはもうちょっと何とかしたほうがいいと思った。

  • 2章が浮いてます

お留守バンシー (電撃文庫)

お留守バンシー (電撃文庫)

 真打ち登場、大賞受賞作。

 ストーリー的にはあまり大したことなくて、どっちかというと雰囲気や会話で読ませるタイプの話。それで大賞を獲っただけあってキャラは立ってる。が……ちょっと絡ませ方が足りないような(特にセルルマーニ)。あんまり細かいことは気にせず、まったーりと読んでいくのが正解かも。

 おもしろいっちゃあ面白いんだけど、大賞にするにはちょっと小粒な感じか。こういうタイプの作品でも大賞が獲れた、ということを評価するべきか、それとも。



 以下総評。

 電撃だけあって、総合的な完成度はどれも他のレーベルの新人賞受賞作より高いです。で、話は必然的にどれだけ尖ってるか、みたいなことになるわけですが、そうなるとやっぱり評価が高くなるのは「狼と香辛料」「お留守バンシー」の2作。あとのふたつはどうしても「どこかで見たような話」の域を出ていないように思えるんですな。

 で、その2作(「火目の巫女」「哀しみキメラ」)なんですが、ほかふたつと比べて世界の開示の仕方がどうにも中途半端に思えます。多分主人公ズが世界の中で特殊な存在で、彼ら彼女らと世界との関わりがあまりしっかりとは書かれてない、というのが原因のひとつかと思うんですが。これはあれか、セカイ系ブームの弊害とかいう奴か(多分全然違う)。

 なんか電撃hpのインタビュー読むとどれも続編が出るみたいなんですが、正直「お留守バンシー」以外はやめたほうがいいんでないかと。「哀しみ〜」は単なるバトルものになりそうだし、「火目〜」は鎖を断ち切る、とかいう展開だとますます普通の話になるし。「狼〜」は次以降今回のバトル以上の面白さが出せるかというと正直疑問なので(それ以前にまんま「キーリ」をなぞりそうな気が)。

 なんにせよ、次はとりあえず読もうと思います。つーかその前に4月にも受賞作が出るみたいですが。うにょーん。

*1:本音>そうでもしないと積ん読が減らないから。